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金沢大学附属病院 精神科 私の抱負 三邉教授

平成二十八年度 巻頭言


同窓会会長・金沢大学教授 三邉義雄


 同窓会会員の皆様にはいよいよご清栄、ご健勝のこととお慶び申しあげます。平成27年は、私が金沢大学に教官としてお世話になりまして、10年目の年でございました。宝町キャンパスの大リニューアルも、いよいよ大詰めの様でございます。正面駐車場工事の影響で、連日大学病院受診の車で石引通りは大渋滞の有様でしたが、今年度はようやくそれから解放されそうです。そして、いよいよ新宝町キャンパス落成です(“こだつのから”の表紙デザインも、そろそろ変更の必要があるようですね、笑)。会員の皆様の御助力御支援に対し、誌上にて改めて心よりお礼申しあげます。主任教授の最大の務めとしては、主に臨床のための人材と主に研究のための資金の獲得、さらにそれらに支えられた医学教育の充実であることを引き続き肝に銘じ、定年までの残り3年間を一層精進致したいと思います。
 今回の巻頭言は、最近一般向けに書いたエッセイの一部内容改変(下記)、とさせて頂きます。私は大学病院の週3回の外来、高岡市民病院と小松市民病院の各週1回の外来、計週5回の外来と病棟回診を中心に、毎週150人程度の患者さんと直接接しております(いずれも総合病院であるため、リエゾンも多く、ほとんどがうつ・不安です)。当然ですが、平素我々が多くを患者さんから学ばせて頂いていることに、改めて感謝したいと思います。

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 とにかく、うつ・不安を訴える患者さん・ェ多い。統計を見ても、その生涯発症率は人口の5-10%と言われ、おそらく人類のかかる疾患のワースト10に入ることは、間違いないだろう。
 誰でも憂鬱になることがあり、うつの患者さんの気持ちを察することは困難ではなく、大いに同情できる病気である。単なる憂鬱とうつ病の違いは主に2つある;@うつ病の方は症状が強く、(自然に治ることも多いが)経過が長い(少なくとも連続して2週間以上継続する)、Aうつ病は時に、双極性障害(かつての名称は躁うつ病)を含み、うつとうつの間にそう状態(普段よりハイになる状態)を伴うことがある、の2点である。ちなみに詳細は今回省略するが、うつ病と双極性障害の治療薬は異なるので、どちらのタイプかを診断することは重要である。
 症状は(午前中に強い)ゆううつ感や意欲減退の他に、(自分を責めての)イライラ感、(一見物覚えが悪くなったのでは?と錯覚する)思考抑制、そして重症になると(多くが衝動的な)死への欲求や無反応状態が出現することもある。本人の苦悩感も当然強い。さらに睡眠障害は、重症度判断に重要な症状である。患者さんには我慢強い人とやや大げさな人がいて、本人の自覚的訴えだけでは状態判断を誤る恐れがある。たとえば、“大丈夫です”と言った人が直後に自殺を図ったり、“自分は自殺する”と言った人が、そうでなかったりする。睡眠障害はある程度客観的な数量的指標なので、本人の感じ方に左右されない。実際“大丈夫”と言っても睡眠障害のある(特に若い)方は要注意であるし、“自殺する”と言っても睡眠が取れていれば一応安心できる、などは私も含め多くの精神科医の共通認識と考えている。だたし高齢になると(老化現象としての)睡眠障害が一般の人にも増えるので、その重症度診断上の意義は下がると考えられる。一方高齢者は、睡眠障害からくる多彩な身体症状に苦しむ方が多いので、睡眠障害の治療上の意義は若い人以上に大きい。ちなみにそう状態になると、本人の苦悩感はなくなるが、逸脱行為や社会不適応行動で見守る家族や周囲の人の苦悩感が大きくなる。精神疾患に限らず病気への対応は、本人のみならず家族や周囲の方のことも考えることが重要であることは、高齢化社会になりさらに注目されていると思う。
 うつになることはできれば避けたいが、うつになることは、悪いことばかりでないと思う。私はうつになって落ち込んでいる患者さんに、“うつになったことは、人生を真面目に生きて・「る証拠で、誇るべきことだ。いい加減な人なら、うつにならない”と、よく励ます。実際うつになる人は、まじめで思いやりがある“良い人”が多く、周囲の評価も高いことが多い。周囲に気遣いしすぎてオーバーペースになることが多いので、“まあいいか、何とかなるだろう”の、マイペースで自分を追い詰めない考え方を持つようにカウンセリングすることが多い。つまり、うつになったことで患者さんが自分の生き方を見つめなおし、うつを克服することでマイナスを埋めるどころか、プラスに転じるきっかけになればと期待する。“災い転じて福となす、雨降って地固まる”である。
 今一つ重要なことは、うつになることで、他の人、特にうつになった人の気持ちがより一層理解できることである。うつ病が治り社会に復帰するときは、本人の努力以上に、周囲(家庭、学校、職場)からの理解と配慮が明暗を分けることが多い。“同僚にうつになった人がいて、本当に親身になってくれた”、“上司に何回話しても、うつのことは理解されず、悲しくつらくなる”という患者さんの話を聞くことが多い。今や官公庁・民間会社問わず長期休職の一番の原因は、うつを中心とするメンタルヘルスの問題だという。さらに企業の中間管理職の最も大きな仕事は、部下のメンタルヘルス対応であり、その講習会や勉強会も最近はたくさん用意されているらしい。企業嘱託医や産業医の最大の任務も、最近はメンタルへルス対応であるらしい。社会復帰や再発予防での、周囲からの理解支援の重要性の裏返しである。
 日本が世界に誇る超長寿社会となり、改めて人生の時間量とともに、その質の重要性が問われている。“楽しいと感じることが減りつらいことが増え、長生きしてみて良かったと、素直に喜べない”と嘆く高齢者に出会うことが多いが、この背景にも心身のバランスのとれた健康の重要性を、そして精神医学の重要性を医師として再認識している。

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 最後に、会員の皆様の一層の御活躍御健勝をお祈り申し上げ、今年の巻頭言とさせて頂きました。本年も、引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。





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